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和倉温泉から約1時間の場所にある羽咋市神子原地区。
いたる所で日本の原風景を感じられる土地。
そんな谷間の集落に「神音カフェ」はひっそりと佇んでいます。
店舗は、江戸時代末期頃の建材を一部再利用して建てられた
築70年の古民家を改装したもので、古びた木の柱、珪藻土の土壁、
囲炉裏など、古き良き日本家屋のエッセンスを残しつつも、
カフェを営むマスター(武藤一樹さん)の感性が
ふんだんに散りばめられた温かみのある空間です。
革張りのソファー、レコードプレーヤー、暖炉など、
丁寧に使い込まれたインテリアが程好く調和した店舗には、
「自分の家のようにくつろいでほしい」というマスターの願い通り、
今日もその居心地の良さに誘われて、多くのお客さんが訪れます。
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写真のカレーは「カシューナッツチキンカレー」。サラダ付きで900円。
その他、自家製焙煎コーヒーと本日のケーキが付いたセットも(1,500円)。
カレーのレパートリーは、日替わりで2〜3種ずつ。年間を通して約8種類ほど。
春先は「竹の子のカレー」、
夏はオクラ、ズッキーニ、ナスなどを使った「菜園の夏野菜カレー」、
冬は「大根と豚バラ肉のスープカレー」といったラインナップ。
旬の素材をふんだんに使ったカレーが登場します。
※2012年11月12日現在
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コーヒーマイスターの資格を持つマスターは、コーヒーの知識も技術も一級品。
こだわりのコーヒー豆を自ら焙煎し、
注文が入る度にコーヒーミルで細かく挽きます。
モットーは、「生産地が明瞭であること。そして、流通ルートも明瞭であること」。
現在、8カ国12品目の豆を扱っており、ブレンドは固定で4種類。
その中からメニューにあわせ、
マスターのお任せで自家製焙煎コーヒーを提供しています。
カフェの店内には、いつもコーヒーの豊かな香りが漂います。
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カフェの入口付近にある物販コーナーでは、
近隣の畑で収穫された有機野菜も販売しています。
マスターは、野菜ソムリエの資格も持っており、
食材のおいしい食べ方をアドバイスしてくれます。
取材に訪れた秋には、じゃがいも(メイクイーン、だんしゃく)、しいたけ、
にんにく、かぼちゃ、さつまいもなど、さまざまな自家製野菜が並んでいました。
また、不定期で大根や白菜、冬にかけては、
朝に穫れたばかりの肉厚原木の生椎茸も登場します。
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カフェのオーナー兼マスターの武藤一樹さん。
「とにかくコーヒーが大好き。音楽を聴いているとき、絵を描いているとき、
いつもコーヒーが身近にありました。
そんなコーヒーとの素晴らしい時間を多くの人と共有したくて、
カフェを開こうと思ったんです」と、柔らかな表情でコーヒー愛を語ります。
岐阜で生まれた武藤さんは、金沢にある美術大学在学中にコーヒーと出会いました。
大学卒業後は、東京の大手CD販売店に就職。
東京の自家焙煎の名店を巡る中で焙煎の技術を学び、
ちょうどその頃に輪島出身の香織さんと結婚しました。
その後、さまざまな縁があって
金沢の自家焙煎コーヒー店で本格的な修業に打ち込みます。
やがて、「自分で野菜を育ててみたい」「田舎で暮らしたい」
「人が集まる場所をつくりたい」、そんなさまざまな想いが膨らみ、
2006年、「神音カフェ」をこの地にオープンしました。
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カフェに隣接する畑。小高い丘になっており、眺めも抜群です。
田畑での活動は今年で10年目を数え、耕す面積は約20アールほど。
米づくりにも取り組んでいます。
「何かひとつでも、一から自分で育てたものを
メニューに取り入れるようにしています」。
この畑で収穫された野菜たちが、カレーの主役になり、
時には付け合わせの一品としてお皿に彩りを加えたりと、
さまざまな料理へと姿を変えていくのです。
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「野菜市場に並んでいるものがいくら新鮮でも、
どうしたって穫れたてにはかないません。
柿だって、もぎたてが一番おいしい」。
そんな話をしながら、自分の畑に生った柿を次々に収穫するマスター。
勧められるままに頬張ってみると、果汁がぽたり。
瑞々しい甘さが口いっぱいに広がります。
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キッチンの窓から眺める竹林は、夫婦のお気に入りの風景。
晴れた日には、木漏れ日が差し込み、
雨の日には、情緒的な景色へとその表情を変えていきます。
いくら眺めても飽きることはありません。
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落花生や唐辛子を天日干しに。
一昔前には、どこの家庭でも当たり前のように見られた光景です。
その他にも、瓶詰めの自家製ピクルスが置かれているなど、
ストックフードがあちらこちらに。
新鮮な食材にひと手間加えて、限りある食材を大切に保存する。
そんな昔ながらの生活の知恵が至る所で見受けられました。
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さまざまな作家の作品やオブジェが窓際に置かれています。
その一方で、太い木の柱に掛けられているのは、
コーヒー豆の生産地であるアフリカやインドネシアのお面たち。
このお店に置かれることになったいきさつはどれもバラバラですが、
カフェの雰囲気にしっかりと馴染んでいるから不思議です。
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カフェの店内には、小さなギャラリーコーナーも併設。
県内でつくられた陶器や布作家の作品が展示販売されています。
その作品のいくつかは実際にカフェでも使われており、
その場で購入することも可能。使い心地を試せるのがとてもうれしい。
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カフェを訪れる客層は、旅行中の観光客、高齢の親御さんを連れた
地元の常連さん、若いカップル、そして子育て世代と実にさまざま。
「小さなお子様連れのご家族もよくいらっしゃいます。
子どもさんたちも意外と静かにしてくれるので大歓迎。
靴を脱いでお店の中に入るので、子どもたちもくつろげるのかもしれませんね」。
そう話す武藤さんも、3人のお子さんの子育て真っ最中。
武藤さん一家の暮らしぶりや、神音カフェの在り方は、
シンプルな生活がもたらすさまざまな魅力を発信すると共に、
地産地消に取り組む地域交流の場としての役割も果たしているのです。
神音カフェ 映像紹介
このお店に行く
多田屋から車で65分
〒925-0601
石川県羽咋市菅池町カ54
- TEL:
- 0767-26-1128
- 営業時間:
- 11:30~17:30
- 定休日:
- 火曜日、日曜日
恥ずかしながら、撮影の時に初めて訪れた。それ以来お馴染みさんになった。そして近々また行きたい。コーヒーもカレーも好きだか、何より武藤さん家族の生き方が好きだ。