能登の誇りといえば、世界農業遺産に認定された「里山里海」に代表される豊かな自然です。綺麗な水と空気に恵まれ、魚やお肉、野菜やお米、塩やお酒まですべてがおいしく、ときに「能登の人間は舌が肥えすぎている」と揶揄されるほど贅沢な食材に囲まれています。そんな能登の味覚を、できるだけ多くのお客様に堪能していただきたい─。多田屋の料理長として、そのような気持ちで日々メニューを考え、調理に取り組んでいます。

 では、どうすればお客様に能登の味覚を届けられるのでしょうか。従来の温泉旅館というと、大人数のお客様に料理を提供する必要性から、どうしてもメニューがパターン化され、料理の量も多くなりがちでした。しかし、本来ならばお客様によって料理に求めるものは異なるはず。「いいものをちょっとずつ」という方もいれば、「見た目も豪華でボリュームのあるものを食べたい」という方もいるでしょう。料理を十分に堪能していただくためには、こういったニーズに応えていく必要があるのではないか。お客様が食べたいもの。料理人としてぜひ食べていただきたいもの。その季節しか食べられない旬のもの。これらを組み合わせ、お客様に合わせた最高の料理を提供したいというのが私たちの願いです。

 さらに食事とは、単に食欲を満たすという行為ではありません。例えばサツマイモは、「○」と「十」で構成された薩摩藩の家紋に由来した「まるじゅう」という別名を持っていますが、こういう知識とともにサツマイモ料理を提供することで、食文化の豊かさも味わっていけだけるように思います。また、地元の名産である「能登むすめ」という大根には、おろしてかぼすを絞ると鮮やかなピンクに変色するという特徴がありますが、こういった“視覚的な楽しみ”も食事の一部として提供したいと思っています。

 一回一回の食事が思い出になるよう、全力で提供させていただきます。ぜひ、多田屋の料理をご堪能いただけたら幸いです。